大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)54号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの記載があること、並びに本願考案と第一引用例記載のものとの間に本件審決認定のとおりの共通点及び相違点((1)及び(2))があることは原告の認めるところ、原告は本願考案と第一引用例との右相違点(2)についての本件審決の認定判断を争い、本願考案は第一引用例及び第二引用例並びに周知事項に基づき極めて容易に考案をすることができるものではない旨主張するが、以下に説示するとおり原告の主張は理由がないものというべきである。

まず、原告は、第一引用例記載のものには、アークを安定させるための装置がないから、アークを発生させる電極に加える電流を大きくしても送りピツチを大きくすることができない旨主張するが、前示本件審決理由の要点によれば、本件審決は、相違点(1)についての認定判断において、第一引用例記載のものには、アークを安定化するための装置がないけれども、磁場などを用いてアークを安定化することは、第二引用例に記載されているように本願考案の実用新案登録出願前周知のことであるから、第一引用例記載のものにおける小型黒鉛電極と被処理物である炭素電極との間に生ずるアークを磁場を用いて安定化することは当業者が極めて容易に思いつく事柄であるとし、更にアークを磁場を用いて安定化するためアークの方向と磁場の方向を一致させることが必要であることは当業者に自明のことに属し、また、本願考案のようなアークを安定化するためのソレノイドを設けることも周知技術から極めて容易に思いつく程度のことと認定判断したものである(右相違点(1)についての本件審決の認定判断は原告の明らかに争わないところである。)ことは明らかであるから、原告の右主張は、本件審決の内容を誤解した主張というほかなく、その前提において失当というべきである。更に、原告は、第一引用例には、電流強度が大きくなれば、送りピツチが大きくなるということを開示し、又は示唆する記載はない旨、したがつてまた、電極に加える電流の強度を大きくすれば、アーク処理の速度が早まるのか、送りピツチを大きくすることができるのか、それとも両方が達成されるのかについて、第一引用例からは予測することができない旨主張するが、本件審決は、相違点(2)の認定判断に当たり、第一引用例に電流強度が大きくなれば、送りピツチが大きくなるとの記載がある旨の認定をしたものではなく、アークを発生させる電極に加える電流の強度を大きくすれば、アークの強さが大きくなり、アークの強さが大きくなれば、送りピツチを大きくすることができるであろうことは当業者が極めて容易に推測できることであると認定したことは本件審決理由の要点に照らし明らかであり、この認定の正当であることは、成立に争いのない甲第五号証(本件審決が周知例として示した特許第九九五二二号公報)の記載、特に、「磁力線ト平行ナル方向ニ電孤ノ存在スル間ハ何等ノ機械力ヲ受ケサルモ電孤カ外部ニ擴リテ磁力線ト或ル角度ヲ有スルニ至レハ外力ヲ受ケ電孤ハ磁力線ノナキ中央ノ場所ニノミ限定セラル従テ線輪(12)ノ起磁力ト熔接頭及被熔接物間ノ距離トヲ適当ニ選ヘハ電孤ハ円筒形ヲ呈シ被熔接物表面ニ於テ其横断面積ハ縮少セラレ得ルノミナラス適宜ニ調整スレハ電孤ノ形ハ任意ニ変形セラルヘシ」との記載から窺える輪状磁束による電孤制御に関する周知の技術にアークを発生させる電流の強度を大きくすれば、アークの強さが大きくなるとの技術常識(この点は原告も認めるところである。)を総合すれば、これを肯認するに十分である。更に、原告は、アークを磁場を利用して安定化させることが第二引用例から公知であるとしても、アークを安定させれば送りピツチを大きくすることができることは、第一引用例及び第二引用例に開示も示唆もないから、両引用例を合わせても、これらから本願考案を極めて容易に考案することができない旨主張するところ、アークを安定させれば、電極に加える電流の強度を大きくすることと相まつて、送りピツチを適宜大きくすることができることは前認定の甲第五号証記載の周知技術の示唆するところということができるから、原告のこの点の主張も採用することができない。そして、成立に争いのない甲第二号証の一、二により認められる本願考案の奏する効果も第一引用例及び第二引用例並びに前示の周知技術から極めて容易に予測し得る範囲を出ないものと認められるから、本件審決の相違点(2)についての認定判断には誤りがないというべきである。

そうであるとすれば、本願考案は、第一引用例及び第二引用例並びに前示周知事項に基づき極めて容易に考案をすることができたものとみるを相当とし、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

炭素電極上に保護被膜を電気アーク処理する装置において、側面炭素電極が水冷ソレノイドの中間部に配され、このソレノイドは独立した電流源から給電されるかまたは前記電気アーク処理に用いる全電流もしくはその一部の電流が給電され、前記側面電極の軸は前記ソレノイドの軸と一致するかまたは平行な関係にあり、前記電気アーク処理は六〇〇Aを超える電流で一〇mmより大きいステツプ幅で行われることを特徴とするアーク炉に使用する炭素電極の処理装置。

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